2010.09.28(Tue) 【おはなし】
無題
九太郎は兎が好きらしい。
近所にある小学校の兎に子供が生まれたんだ!と騒いでいた。
朝から晩まで地獄の業火のような暑さが続いていて、そんなけむくじゃらの生き物を想像するだけでもげんなりな俺と大輔はちょっと目を合わせて顔をしかめ合っていた。
もうすぐ夏休みになる。梅雨があけて太陽が本気出して俺等を焼き殺そうと言わんばかりに照りつける俺らの学校の校舎にはこともあろうかクーラーが無い。時代遅れも甚だしい!こんな日に授業なんてやってられっかということで、最近の俺たちは3人でコンビニで立ち読みしたり、ゲーセンに行くのが日課となっている。今日も俺たちがしゃがみ込んでだべっているのは寂れたゲーセンだ。ガリガリ君が棒の先から溶け始めて、手がべたべたになる前にと角から啜ってく。
九太郎は暑そうな髪型をしてるクセに汗ひとつたらさずにいられるような奴だ。炎天下で兎を抱いたってこいつなら全然平気なのだろう。羨ましい。それに引き換えインドア派で暑がりの俺はここ数日の暑気に当たってばてていた。
大輔がさほど面白くない話題からなんとか逃れようとこのゲーセンのUFOキャッチャーは全然客のこと考えてないと言っているが、九太郎の興味は逸れなかった。
しまいには生まれたら一番最初に俺がだっこする!!!と宣言までしている。小学生たちを押しのいてだっこ戦争に勝利する九太郎が目に浮かんでため息をついた。
「だからさ!ほら早く行こうぜ!」
そんな想像をしているうちに九太郎がいきなり俺と大輔の腕を掴んで外へ飛び出そうとするものだから、俺らは酷く慌てた。
「キュウ!おいおまえ正気かよ!」
「ショウキってなに?」
「カギなんてそんな盗めるようなとこにねーだろ」
「無いなら探せばいいじゃん!」
…どうやら飼育小屋のカギを盗んで突入するという話になっていたようだ。
大輔の冷静な意見も九太郎にはちょっと邪魔な道端の小石くらいにしか見えないようで、大輔の意見は片っ端から蹴飛ばされて道の脇に転がされる。
「九太郎いい加減にしろよ!こんなクソ暑い中で兎なんか触りにいくなんて頭おかしいだろお前」
俺がそう一喝すると九太郎はとたんに氷点下のオーラを放った。
ヤバい。こいつは本気だ。
普段なら俺か大輔が怒れば大抵の我が侭はひっこめる九太郎だが、どうにも変なところで意地を発揮する。その前は大輔の弁当の海老フライを強請って断られた時だった。こうなった九太郎は俺たちに抑える術がない。下手をすれば乱闘に発展して血を見ることに(そのままの意味で)なりかねないし、そんなばかばかしいことで騒ぎになったら大輔も俺も立場がないだろう。とにかく、今言えるのは、九太郎は今まさに海老フライを目の前から取り上げられた状態にいるってことだ。
「………」
無言だ。お喋りな奴が無言でいることほど怖いことはない。
しばしの沈黙が続く。
数人しかいない客の一人が格闘で負けたらしく、情けない電子音が響いていた。
「You lose」
「…わかったよ付き合うよ」
大輔が折れた。
大輔が折れれば俺も付き合わざるおえない。
同じようにため息をついて、ガリガリ君の棒を投げ捨てた。
近所にある小学校の兎に子供が生まれたんだ!と騒いでいた。
朝から晩まで地獄の業火のような暑さが続いていて、そんなけむくじゃらの生き物を想像するだけでもげんなりな俺と大輔はちょっと目を合わせて顔をしかめ合っていた。
もうすぐ夏休みになる。梅雨があけて太陽が本気出して俺等を焼き殺そうと言わんばかりに照りつける俺らの学校の校舎にはこともあろうかクーラーが無い。時代遅れも甚だしい!こんな日に授業なんてやってられっかということで、最近の俺たちは3人でコンビニで立ち読みしたり、ゲーセンに行くのが日課となっている。今日も俺たちがしゃがみ込んでだべっているのは寂れたゲーセンだ。ガリガリ君が棒の先から溶け始めて、手がべたべたになる前にと角から啜ってく。
九太郎は暑そうな髪型をしてるクセに汗ひとつたらさずにいられるような奴だ。炎天下で兎を抱いたってこいつなら全然平気なのだろう。羨ましい。それに引き換えインドア派で暑がりの俺はここ数日の暑気に当たってばてていた。
大輔がさほど面白くない話題からなんとか逃れようとこのゲーセンのUFOキャッチャーは全然客のこと考えてないと言っているが、九太郎の興味は逸れなかった。
しまいには生まれたら一番最初に俺がだっこする!!!と宣言までしている。小学生たちを押しのいてだっこ戦争に勝利する九太郎が目に浮かんでため息をついた。
「だからさ!ほら早く行こうぜ!」
そんな想像をしているうちに九太郎がいきなり俺と大輔の腕を掴んで外へ飛び出そうとするものだから、俺らは酷く慌てた。
「キュウ!おいおまえ正気かよ!」
「ショウキってなに?」
「カギなんてそんな盗めるようなとこにねーだろ」
「無いなら探せばいいじゃん!」
…どうやら飼育小屋のカギを盗んで突入するという話になっていたようだ。
大輔の冷静な意見も九太郎にはちょっと邪魔な道端の小石くらいにしか見えないようで、大輔の意見は片っ端から蹴飛ばされて道の脇に転がされる。
「九太郎いい加減にしろよ!こんなクソ暑い中で兎なんか触りにいくなんて頭おかしいだろお前」
俺がそう一喝すると九太郎はとたんに氷点下のオーラを放った。
ヤバい。こいつは本気だ。
普段なら俺か大輔が怒れば大抵の我が侭はひっこめる九太郎だが、どうにも変なところで意地を発揮する。その前は大輔の弁当の海老フライを強請って断られた時だった。こうなった九太郎は俺たちに抑える術がない。下手をすれば乱闘に発展して血を見ることに(そのままの意味で)なりかねないし、そんなばかばかしいことで騒ぎになったら大輔も俺も立場がないだろう。とにかく、今言えるのは、九太郎は今まさに海老フライを目の前から取り上げられた状態にいるってことだ。
「………」
無言だ。お喋りな奴が無言でいることほど怖いことはない。
しばしの沈黙が続く。
数人しかいない客の一人が格闘で負けたらしく、情けない電子音が響いていた。
「You lose」
「…わかったよ付き合うよ」
大輔が折れた。
大輔が折れれば俺も付き合わざるおえない。
同じようにため息をついて、ガリガリ君の棒を投げ捨てた。
PR